2018/1/6 私の個人主義/怖いもの知らずの病理学講義
冬の京都は寒い。
アルバイト前に食事を済ませようと、お気に入りのつけ麺屋に立ち寄ったが開店まで20分ほどあった。外で待つには寒さが怖いので、近くにある本屋、恵文社に入る。恵文社は、一乗寺という油くさいラーメン街では異彩を放つような、小洒落た店構えが特徴の書店で、品揃えもどこか他の店とは異なる。
ふらりと歩く。
そういえば正月は金を使いすぎた。アルバイトも2月でやめようと思うから今後の景気を考えると、無闇な出費は自分の首を絞める。
最初に足を止めたのは国語関連の書棚。大野晋の『日本語と私』が目にとまる。次に野矢茂樹の『大人の国語ゼミ』。どちらも興味深いが今日はどうも購入までは惹かれない。
お次は近代作品。漱石や犀星。知り合いたちと目を合わせる。ふと漱石作品は教科書程度でしか読んだことがないと思い、手を伸ばす。
『私の個人主義』
先にも述べた通り、恥ずかしながら私が夏目漱石について知るところは則天去私のエピソードくらいしかない。しかもそれも受験勉強で聞きかじったようなものだ。興味が湧く。彼の思想に触れるなら、講演を記録したという、この本がいいのではないか。
本を手に持ち、隣の部屋に行く。(恵文社は壁に仕切られ、三室になっている。)部屋に行くまでに、ヘミングウェイと目が合う。次にハーマン・メルヴィルの『白鯨』。『白鯨』は初対面。ただ、あまり心は揺さぶられず。しかしいつかは読みたい。
次の部屋は実用書が多い。真っ先に黄色の表紙に目がいく。
『怖いもの知らずの病理学講義』
芸の肥やしになればと思いぱらりと開く。
優しい語り口の文体と、ポップなイラストに目がいく。ときめく。同時にこんな感情が頭をもたげる。
おそらく買ってもほとんど読まない。
わかる。
なんとなくで買って、山積みになった本は数えしれない。それでも、本の森を育てることは、どこか心を豊かにさせる。それがただ、楽しい。
気づけば18時手前。店はそろそろ開く。
私は出費の手痛さなど忘れ、二冊の本とともに腹ごしらえへと向かった。